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すぐ後ろに出て来た矢口の息子に
「紗栄子が世話になった」
と言うと
「カフェバーの仕事、いろいろと教えてくれたの」
紗栄子が俺を見上げて言う。
「紗栄子、仕事行くのか?」
「ダメなら行かない。私が騙されて車に乗っちゃったから…」
「紗栄子のせいじゃねぇよ。その辺の話が納得出来るなら仕事はかまわない。だが、自分のせいだ、自分が自分を守らないと、と緊張感を持って勤務するならダメだ。守るのは周りだ。紗栄子だけではどうにもならねぇ世界だってことを理解してくれるならいい」
「うん…分かるんだけど…」
納得してない顔で口を閉じた紗栄子の、少し赤く痛むであろう口元を撫でる。
「ん?」
「…次に同じことがあったら…絶対に避けられると思うんだよね…」
「なぜ?」
同じということは無いだろうと皆が思っているが、聞ける時に聞くのが一番だ。
「まず…ゴミ箱の異変ですぐにカウンターに走って空雅さんに報告…とか?」
「ん」
「龍之介がとか、代わりのお迎えとか言われても…走って空雅さんに報告…とか?」
「ん」
「車が違うと気づいたら駐車場でもっと暴れる…?うーん…これはドアが開いて気づいたから…難しいかな…護身術を習うとか?」
「ドアが開いて気づいた?」
「うん、タバコ臭くて藤堂の車じゃないって気づいたから乗らなかった…気分はね…だから足を上げなかったんだけど押されて引っ張られて、ここをガンゴンッて打った」
「紗栄子さん、ナイスファイトです。その一瞬の立ち止まりの間にも若は動いて、私達も迎えに行くワケですから。仕事はゆっくりと若とご相談ください。カフェバーのカメラなど対策はまだまだ考えられるので藤堂の失態です」
福嶋の言う通り、裏のカメラをカウンター内で確認などの対応が出来る。紗栄子の気持ち次第だ。
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