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「オーケー、お母さん綺麗になったよ」
そう声を掛けた時には、母はもう眠っていた。私はそっと部屋を出てスタッフさんの部屋へ行き、朝の鎮痛剤の時間と効く時間を確かめる。
「もう切れる頃ですけど、眠られましたか?やっとお薬なしで眠れる時間が来ましたね。紗栄子さん効果ですよ」
ホスピスのスタッフさんは家族と一緒に患者の最期を看取る覚悟を持って、家族の精神的ケアもしてくれる。だから掛けてくださる言葉はいつも温かい。
今日は私に座るように言ってから、ティーバッグの紅茶を淹れて下さったので、私は今日の母との会話を再現して聞いてもらう。
「お母さんにとって、とてもいい日ですね。好きな物を味わって、身だしなみを整えて…どちらも生きる活力ですから」
「私にとってもいい日です。いつもありがとうございます。部屋の掃除をして来ます」
「はい、いってらっしゃい」
定期的な清掃はもちろんあるけれど、最期の家という認識のホスピスの部屋は自分たちで出来るだけ掃除などをして、病院とは違う普通の生活をする。
母の部屋でさっき母が使った洗面台を100均で買ったスポンジで磨きながら、義母との最後の会話を思い出した。
「たとえ100円の物でも勝手に捨てないでください」
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