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「紗栄子が痛みを抱えてんだから、俺もこの痛みを抱えておく。抱けない時も、抱かない時も紗栄子を想う気持ちは変わらないから安心しろ」
チュッと唇を重ねてから
「紗栄子が抱いて欲しい時は、遠慮なく言えよ?25時間喜んで受ける」
「すっご…龍之介の1日は…人より1時間長いんだ…さすが若様…」
紗栄子がぼーっと言うので
「紗栄子を抱いてる時は、時間なんて超越した感覚だからな。飯食うか?」
もう一度キスをしてゆっくりと抱き起こした。それからプライベートスペースにあるトイレや洗面所を使っているうちに
「動くのは普通に動ける…」
そうも言って皆が揃う表のキッチンへ行ったのだが、紗栄子は包丁に伸ばしかけた手を途中で一瞬止めてから柄を掴んだ。
「紗栄子、無理に持たなくていいぞ」
俺がゆっくりと紗栄子の指を包丁の柄から離してやるのを、少し距離を取って福嶋たちが見ている。
「大丈夫だよ。ちょっと昨日のことを思い出したのは確かだけど…それだけだから。梨とリンゴを切りたい」
「紗栄ちゃん、オレが切るよ」
「空雅、大丈夫だ。紗栄子が切る」
「そっか…じゃあ、フォーク出して待ってるよ、紗栄ちゃん」
「私もリンゴがちょうど食べたかったので紗栄子さん、お願いします」
「はぁい、福嶋さん。フルーツの美味しい季節ですよね。2種類同時に切るなんて贅沢は大人数で食べてこそかな、ふふっ…お母さんとお父さんにもあげよっと」
普通の生活を再び作って見守って、乗り越えていくしかない部分もあるな。あれだけの目にあえば当然だ。
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