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part 14
突然、龍之介のお父さんとお母さんが来た…龍之介も親父、姐さんと呼ぶ二人だとは前から聞いている。
龍之介より一回り小さな紳士がお父さん。目鼻立ちが龍之介とよく似ている。
ふっくらと肉付きはいいようだけど太っている訳ではないお母さんは、よく通る声ですぐに私を“サエコ”と呼び始めた。着物のことは全く知らない私でも、紅葉の柄で秋の着物だなとかボルドー色の帯締めが秋なのかな、とは思う。
私に掛ける声も大崎さんへ掛ける声も全く同じトーンの龍之介のお母さんは気持ちのいい人という印象だ。そして言われた一家に1台は、悪い意味ではないと思うものの“雰囲気”ってなんだろう。
「一緒にいて非常に役立つ、楽しい、安らぐという意味で使われる言葉です」
「一つの家庭に一つあること、または一つあることが理想的であると説く文言ですね」
芦田さん、福嶋さんが私に教えてくれて
「…っていう雰囲気…初めて言われた…」
と龍之介を見る。
「深く考えなくても、姐さんも親父も紗栄子にいつでも本家に来いと言いたいんだろ」
「そっか…昨日は私のことを嫌いだって面と向かって言われて…今日は嬉しいことを言ってもらった」
「紗栄子さんの物をたくさん買えると嬉しいんだが?ほら、コートが出てきた。袖を通してきなさい。気に入らなければお直しだけでなく、セミオーダーで作ればいい」
セミオーダーとは?私が聞く間もなく、私の肩にコートが掛けられ
「あ、サエコの身長を考えてもっと短いロングコートを出してちょうだい」
と…ん?短いロングコート…姐さんスッゴイかもしれない…ちょっとわくわくしてごめんなさい、大崎さん。
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