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「衣装チェンジして楽しめばいい」
「何でも楽しまないと」
高級部屋着を前に呆然とする私の肩を撫でていた龍之介の向こうに組長さん、私の隣に姐さんが来て言う…藤堂親子の包囲網にはかなわない。
龍之介は肩を撫でたままバリトンを響かせた。
「紗栄子が欲しい物がここに無ければ、他の店にも行く」
「もう必要な物はな…」
「サエコ、必要なものが揃うのは当たり前。それは家に風呂場があるのと同じこと。そうじゃなく、風呂に好きな香りの入浴剤を入れるとか、美容液に入っているみたいなものも買ってみるとか、そういうプラスアルファで楽しみを増やしていくんだよ」
美容液に入っているみたいな入浴剤って想像できない。私の知識を超越した楽しみのようだ。
「龍之介と出歩くにも、ここで買い物をしておけば同じファッションテイストで、ますます似合いのアヴェックになると思う」
「…アヴェ…?」
「サエコ、アベックだよ。和製フランス語だからね、あの人の発音が良すぎたかい?」
グイグイ…姐さん肘鉄…地味に痛いです…
「やめろ。紗栄子は全身に痛みがある」
龍之介が私をすっぽり腕に包み込んだ…肘鉄は免れたけど恥ずかしい。
「ああ、悪かったわね、サエコ。昨日龍之介とハッスルしたのかい?いいねぇ、いいっ」
龍之介の腕の中で助かった…ハッスルしてない…っていうか、アベックとかハッスルとか…聞き慣れない言葉が龍之介の両親からは飛び出すことを覚えておこう。
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