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「こういう世界に紗栄子を引き込んだのは俺…って、さっき龍之介は言ったよね?」
「ん」
「それも助けてもらったと思ってるよ」
「そうか」
「うん。そのおかげで…一人ぼっちのはずの私がたくさんの家族に会えてるんでしょ?そして、龍之介がいるから私も大切にしてもらえてね。私もその人たちみんなを大切にしたいと思う」
「俺がいるからじゃねぇな、紗栄子だからだ」
龍之介はそう言いながら、また頭をポンポンポンポンとする。
「そうだよ、サエコ」
よく通る声を聞いて“姐さんが久しぶりに喋った”と思いながら目を向けると
「万が一、今、龍之介に何かあったとして命を落とすようなことがあったとしても、私はサエコを娘に迎えるよ。サエコの心意気が嬉しいじゃないか。龍之介がいなくたってサエコを大切にするよ」
誰にも似ていない、きっぱり過ぎるほどの語尾のトーンで言葉が私にぶつかってくる。
「そんなことがあってはならないですが万が一…姐さんじゃなくても、私が紗栄子さんを娘に迎えますよ」
「ちょっと待った。矢口が出て来なくても私が紗栄子さんを娘にお迎えします」
「芦田さんもちょっと待ったぁ。父さんも名乗り出るよね?紗栄ちゃんはボクと兄貴の妹なんだよ」
「もちろん、先手を取りたいくらいだ。福嶋紗栄子になってもらえばいい」
「ちょっと待って。うちなら兄貴んとこのレミ付きだよ、紗栄ちゃん?」
昨日の涙は堪えられた。でも今日は無理っぽい…
「…っ…私…友達も…出来…なかった…母の手伝い…と…バイト…で…なのに…ここで…みんな…っ…優し…苦し…ぃ…っ…嬉し…」
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