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住宅の数が減ると道が開けて駅がすぐだ。ここはバイクがビュンと来てしまう通りだから急がないと。バイクは駅を横断出来ないのだからここを逃げ切れば、しばらく一人の時間を確保出来る。
後ろや横道を見ながら軽く走っていたのだけれど、もう前を向いて駅まで一気に走ることにした。この時間でさえ、あの家から解放された気分になっている自分が可笑しくなってくる。
走る私の後ろからバイクの音が聞こえたようで、急いで歩道を降りて駅側へと道路を横断する…と…あっ…
路駐している車で見えていなかった…車のヘッドライトが私のダークグリーンのセットアップを照らしたと思うと明らかに急停止しようと減速する。
運転手さん、ごめんなさい…飛び出したのは私です…本当にごめんなさい…と思うけれど足は動かず、ドンッ…いや……車はトンッと私に当たって停止し、撥ね飛ばされるはずだった私はポテンとそこに転けた。
いたっ…けど、転けただけだよね。
周りにいる人々が息を飲んだのか、どの車も停止したのか、静寂の中心にいる気がする。ゆっくりと起き上がろうとした私のすぐ側で、重いドアの閉まる音が続けて静寂を破り、複数の靴音が私の真横で止まった。
「運転手さん…本当にごめんなさい…私が悪いんです…」
とアスファルトに手をつきながら言うと
「動くな」
重厚感のあるバリトンボイスに動きを止められた。
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