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「いえ…散歩に…」
私の返答に目の前の、左右均整が素晴らしくとれ鼻筋が通った、目鼻立ちがはっきりしている男が私をじっと見た。そしてここで助手席からも視線を感じる。
「散歩であの急ぎようですか?自殺願望でも?」
「いえっ、全く…そんなことはないんです…っ…」
助手席に目を向けた時に動かした体はどんより重く痛い。
「この重い車と接触して無傷なワケがない」
「ボクのブレーキが間に合わずに申し訳ありません」
抱き抱えられたままの人に続いて、運転されている方の声がして本当に悪いことをしてしまったと悔やむ。
「間に合わなくて当然でしたよね。本当に私の不注意でごめんなさい。警察がどうのっていうのがもう大丈夫なら降ろしてもらえば帰ります」
「藤堂龍之介。名前は?」
「……」
「私は福嶋宏之です」
「ボクは福嶋舞生。弟です」
福嶋兄弟はすごくお年が離れていそうだけれど…この流れは私も名乗るしかない?
「…清水紗栄子です」
「どうしてあんなに急いでいた?」
「……」
「電車の時間があるでもなく、散歩ならあそこで道路を渡る必要もないはず」
「……そうですか…?」
「ん?」
ああ…素晴らしい傾聴力の持ち主なのだろう。貝になるべし。
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