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私が口を閉じて、しばらくすると車が静かに減速した。そういえば…乗ったことのないような高級車なんじゃないかと思ったけれど、藤堂さんに抱えられたままでシートの感触がわからない。
車が停止すると同時に助手席の福嶋さんが車から降り
「ここは?」
と私が口を開けた時に、コンコンコンと三度、後部座席ドアがノックされてからドアが開けられた。
「マンション。明るいところでケガの確認」
そう言った藤堂さんは私を抱え直すと、横抱きにしたまま車外に出ようとする。
「ちょ…っ…歩けますっ、歩けますから降ろして…」
「歩いていいかを確認」
バリトンを無駄に発しないというのか、彼の言葉は短い。でも声は真っ直ぐ私へ届くので騒ぐ気にはならなかった。
だけど、この体勢で歩かれると視線をどこへ向ければいいのかわからない。プリンセスならプリンスを見つめていればいいのだろうけど。私は駐車場の天井を見てから、揺れて見えるのが気分良くないと藤堂さんの黒シャツを至近距離で見ていた。
エレベーターへは福嶋さんも一緒に乗って一度も止まることなく目的階へ到着したようだ。
短い電子音のあとに開かれたドアの内側で
「靴」
「はい。清水さん、失礼します」
抱き抱えられたまま福嶋さんにスニーカーを脱がして頂くという何とも恥ずかしい経験をしてから…ぇ…明らかに天井が高くて空間が広々としてるよね…マンションで靴を脱いだら壁が見える空間なんじゃないの?
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