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思った通り‘耕介さん’と表示されるスマホをタップする私の視界には、福嶋兄弟によって準備された救急箱と水などが入り込む。
‘紗栄子っ、今どこだ?あっ?聞こえてるだろっ?何処にいるっ?おいっ、紗栄子っ’
「…早口過ぎて、大きな声過ぎて…わからないわ…」
そうゆっくりと応える私の真横でシュッ…小さくガスの抜ける音がして藤堂さんが炭酸水を飲んだようだ…もたれている体が僅かに動く。
‘のんびりしてる場合じゃないってっ。本当にトロいのは手が掛かる。今、誰と何処にいる?’
「誰と何処?」
‘頭打ってイカれたか?駅前で車にぶつかったのは紗栄子なんじゃないのかっ?ヤバいって’
夫は私が事故にあって頭を打っても、ケガの程度を心配するよりも言いたいことがあるらしい。
「頭は打ってないから、あなたの言うようにイカれた訳じゃないと思うけど?ヤバいって何の心配をして電話してるの?」
‘やっぱり紗栄子かよ…マジでやめてくれ。事故るにしても相手を選べよ’
「事故る相手を選べ…って…無理な話ね」
焦っているのか興奮しているのか…私を追いかけていたのとは別の夫の様子に
「何の心配?」
ともう一度聞いてみる。
‘お前のぶつかったのは藤堂組の車だろ?見てた奴らが騒いでた。車から下ろされたか?名前言ってないだろうな?まだ解放されてなくても絶対に名前を言うなよ?絶対に素性を明かさずに逃げて来い’
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