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「最近寝る前ね、ニューラで草原にいる感覚になって落ち着くんだ」
2047年4月初旬。
サークル新歓でだべっている時の晴海さんからの一言。
(ニューラか…よし、調べまくるぞ!)
有川の学習方針が決まった。原因が、劣情か清廉な愛かは定かではない。
「おっけ完璧…これで今日のデートバチバチに決まるはず」
ゲーミングチェアでくつろぐ男子大学1年、有川無人(ありかわ なひと)はバチバチに目がキマっていた。
1分間の「超ポジティブイケイケマインド体験」直後の有川…。
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「言語」は、人間のコミュニケーション記号にとっての役割を減らしつつあった。
2047年。
代替は、絵でも表情でもセックスでもない。
「ニューラ」
世界は、より早く・より多く・より正確に情報を伝えるために新しいコミュニケーション記号を開発した。
簡単に説明しよう。
ニューラは、2進数であらわされた3次元マップ記号だ。
3次元マップに投影すると、脳の神経細胞とシナプスのように、点と線であらわされる。
だが、だからなんだ?
だから、脳が知覚・保存できることは超高速で大量に正確に伝達が可能になったのだ。
1万もの小難しい論文も。
精緻に描かれた絵画も。
2時間の濃いpodcastも。
すべて、ニューラによって一発でインプットできる。
成長マインドセットも。
発展途上国で飢餓に苦しむ子どもの気持ちも。
プログラミング言語pythonの使い方も。
頭にある外付けデバイスから、インターネット経由ですぐに取り込める。
長年、人間は言語(話すときは「言葉」、書く時は「文字」)を主なコミュニケーション記号としてきた。
情報革命により、ソフトウェアを作る際に必要なプログラミング言語も台頭。
倍速視聴の一般化で、動画はたいてい1.5倍速か2倍速される。
膨大な情報が伝わりやすいように、目を引くデザインを施した図表も重要になってきた。
知識は動画化され、楽しく受動的に摂取できるようにもなった。
これらの具体例が示す、「情報獲得」における主要な変数は何か。
①情報密度。単位時間あたりに受け取れる情報の量(発信者側の問題)
②情報吸収度:情報をどれだけ自分の脳にインストールできるか。(獲得者側の問題)
この①②の仮説を、最高の形で実現したのが「ニューラ(Neura)」というわけだ。
2047年現在、「おはよう」や「ありがとう」などといった日常会話をニューラで代替するまでには至っていない。しかし、学習においては、日本では市場規模の50%がニューラ絡みのビジネスである。
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有川は、素晴らしいメンタルコンディションで家を出た。
大学二年生で1つ先輩の晴海さんとの第一回デートが始まる。
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