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お昼ご飯は桂川沿いにある蕎麦屋さんに入った。渡月橋と嵐山の自然を眺めながら食事ができる最高のロケーションだ。
「おっ美味しい! 僕こんなに美味しい蕎麦初めて食べたんだけど」
「俺も」
隣を見れば、由貴くんは蕎麦を大盛りにした上に天丼やらデザートやらを大量に頼んでいる。
「……えっ、食い過ぎ?」
僕の視線に気がついた由貴くんが少しだけ頬を赤らめた。
かっ、可愛い。
「全然! ほらもっと食べなよ!」
「うわっ、入れるなって! お前の分なくなるじゃん」
やがて僕が普通の量を食べ終わるのとほぼ同時に、由貴くんもペロリと全て完食してしまった。
その細い身体のどこに入っているのか甚だ疑問だけど、見ていて気持ちの良い食べっぷりだ。
向こうに帰ってからもまた一緒に食事に行きたいな。
それから世界遺産である天龍寺の庭園や、空高く聳える大迫力の竹林を見て歩いた。秋の絶景に胸をときめかせながら、心の中では隣を歩く由貴くんの手を握ってみたいな、なんて思ったりして。
けれどそうする勇気もないまま、夕方が近づいてきた。
* * *
竹林の中にある野宮神社の黒木の鳥居をくぐり抜ける。
朱色じゃない鳥居って珍しいよね。厳かな感じがして、竹林の雰囲気にぴったり合っている。
ここは恋愛成就のご利益で有名な神社らしい。
まずは手順に沿って参拝する。それからパワースポットである「亀石」の前にやって来た。
これを撫でさすったら一年以内に願い事が叶うとされている、らしい。とりわけ恋愛に関しての願いは叶いやすいとかなんとか。
僕は意を決して亀石に右手を触れさせた。
由貴くんと恋人になりたいです。僕に勇気をください。
切実な願いを心の中で唱えていると、隣から由貴くんも手を伸ばした。彼は何を願っているんだろう。チラリと盗み見たその真剣な表情からは窺い知れない。
* * *
「……何願ったの」
鳥居を出たところで由貴くんが口を開いた。突然のことにびっくりして言葉が出てこない。
「……あの、えっと」
「…………」
「……あ、あ」
「…………」
「あの、ゆっ、由貴く」
「あー! 成瀬じゃん」
びく、と肩を振るわせ振り返ると、そこには同じクラスの女子が数人で立っていた。
「今一人? 一緒に回んない?」
ひっ、一人なわけないでしょうが。
出鼻を挫かれてしまった僕は急に気持ちが小さくなって、しおしおと道端に項垂れた。
「悪い。俺秋人と一緒に回りたいから」
「え? あー、じゃあ倉木も一緒に来ればいいじゃん」
喉元まで出掛かった気持ちがつっかえたままになっていて、にわかに呼吸が苦しくなる。
「ねぇ見てよ成瀬。これさっき撮った写真なんだけどさ……」
「あぁ、また今度見るから。俺今秋人と……」
苦しい。胸が苦しい。ほんの一瞬、二人きりじゃなくなっただけなのに。由貴くんが別の誰かに囲まれているのがこんなにも苦しい。
僕だけの由貴くんでいてほしい。
「……秋人?」
僕はみんなの輪に割って入った。
「ごめん。今、僕たち二人で回ってるから……」
そう言って彼の手を引く。人の中をずんずん歩いていく。彼が今どんな顔をしているのかはわからない。
「秋人」
人通りの少ない路地へ入って立ち止まった。ようやく彼の方へ向き直る。
「あきっ……」
彼の身体を正面から抱き寄せた。背中に手を回して、これでもかってぐらいぎゅうぎゅうと強く抱きしめる。どれだけ強く触れても足りなかった。もっと、もっと強く。この胸の鼓動も何もかも、全部伝わってしまえばいい。
「……由貴くん、好きです」
その一言だけが口をついて出た。
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