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期末考査が終わり、夏休みが近づいてきた。
夏休み。しかし僕の予定といえば部活に学校の補習、塾の夏期講習ぐらいのもので、小学生の頃に感じたあのトキメキも今となっては過去のことである。
そんなこんなで、特に代わり映えしない学校からの帰り道。先に部活を終えた僕は、真宮を待つため校門に立ってぼうっとスマホを眺めていた。
「ね、今度の試合、出るんでしょ?」
「私絶対応援行くから!」
むむ、何やら大勢の女子に囲まれた男が出てきたぞ。思わずスマホから顔を上げる。あ、やっぱり成瀬くんだ。
何度も言うようだけど、成瀬くんはバスケ部のエースである。以前、クラス対抗の球技大会で一度だけ、成瀬くんがバスケをしているのを見たことがある(ちなみに僕は裏方をやっていた。選手か裏方、好きな方を選べるのは本当に有難い)。
成瀬くんの独擅場か、とも思われた球技大会だったけれど、彼は全員が活躍できるよう積極的に、絶妙なパスを繰り出していた。やはり柔軟な彼らしいプレーだった。
けれどここぞ、という時には自らシュートを決めるのだ。そう、これはもう成瀬くんが行くしかない、絶対に決めろよ、とみんなからの期待が集中した瞬間。これが本当に見事で、彼は絶対に応援しているクラスメイトや観客の期待を裏切らないのである。
あの時の盛り上がり具合はとんでもなかったな。球技大会ってこんなに盛り上がるものだったんだ、って感動すら覚えた。
「倉木ー! おーい!」
バッと振り向くと、真宮が僕の耳元で叫んでいる。
「おぉ、やっと気が付いた。ついに成瀬以外の存在認識しなくなったんじゃないかと思って焦ったぜ」
「ご、ごごごめん、真宮。そんなに見てたかな」
「てかすげぇな、相変わらず」
真宮も成瀬くんの方に目を向けた。
「俺も一度でいいから女子にあんなにチヤホヤされてみてぇよ」
「そうかな……」
「あーあー。お前は女子なんかに興味ねぇもんな。口を開けば成瀬のことばっか。……うん? てか、成瀬って彼女いんのかな」
「ううっ‼」
突如胸を押さえて蹲った僕に真宮が駆け寄る。
「おい、どうしたしっかりしろ」
「そういう話はしないで頂けません……?」
「いや、悪い。でもさ、実際そういう噂って全く聞かねぇよな。女子の方から告ったって話は定期的に聞くけど。全部断ってんのかな」
「……どうだろう」
成瀬くんがオメガだってことは、真宮にも話していない。もちろん彼のことを信用していない訳ではなくて、成瀬くんとの約束を守りたいだけ。彼が勇気をもって話してくれたこと、絶対に後悔させるわけにはいかないから。
けれど彼に恋人がいるか否かは別問題だ。確かに学校内でそういう噂は聞かないけど、彼のことだから、案外本当に信頼の置ける相手とこっそり付き合っているなんてことはあるんじゃないかと思ったりして。
「ううっ‼」
「おい、もうこの話はよそう。……あぁそうだ、倉木はバスケ部の試合、応援に行かねぇの?」
「え? そりゃ行ってみたいけど……」
僕は女子に囲まれる成瀬くんを見る。
次の試合日程は休日だから、当然みんなが応援にくることになる。成瀬くんには学校内外に多くのファンがついているという噂だから、それを目の当たりにするのが小心者の僕には怖いのだ。
「僕なんかが行っていいのかなって……」
「いいに決まってんだろ。成瀬も喜ぶと思うぞ。最近お前ら仲良いし」
「そうかな……」
「ほらもう、どこで遠慮してんだよ。なんなら今声かけてこい」
「うわっ⁉ ちょ、真宮!」
真宮に(物理的に)背中を押され、僕は成瀬くんたちのいる方へ強制的に突撃させられてしまった。
「あっ、倉木だ」
僕に気が付いた成瀬くんがこちらへ向かって手を振る。うわっ、女子たちの視線が怖いんだけど。
「じゃ、俺あいつに用があるから」
しかも女子たちを置いてこちらへやってきた。僕は思わず街路樹の陰に逃げ込む。
「……何してんの?」
「いやぁ……ハハ……。ちょっと眩しくて」
「もう夜だし薄暗いけど」
「ハハ……」
ここまでくればもう後には引き返せない。僕は気を取り直して、成瀬くんに向き直る。
「えっと、成瀬くん、今度の試合出るよね。僕も応援に行っていいかな」
「えっ、マジ? 来てくれんの?」
「うん。成瀬くんがバスケやってるとこ見てみたくて」
「もちろんいいよ」
成瀬くんは鞄からスマホを取り出してメッセージアプリを立ち上げる。しばらくすると、僕のスマホに通知が入った。
「場所とか日程とか送っといたから」
「わぁ、ありがとう」
「……俺ももっと頑張らねぇとな。倉木が来るならなおさら」
「えぇ?」
「バスケしてる姿見せても『かっこいい』って思ってもらえるようにさ」
成瀬くんは部活仲間に呼ばれて去っていく。
……それはちょっと予想外だったな。僕が勝手にかっこいいって言っていただけなのに、そう思われるよう頑張ろうだなんて。
「おーい、倉木。どうだった?」
「真宮。……僕、成瀬くんのこと好きかも」
「いや、知ってるけど」
「違うんだよ。すっごく好きかもしれない」
「何がどう違うんだよ」
「だから、すっごく好きなんだってば」
「意味がわからん」
僕も周りに負けないぐらい、しっかり応援しなきゃと気合いを入れ直した。
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