第14話

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第14話

 定期BELと無人コイルタクシーを乗り継いで二人は太陽系広域惑星警察タイタン地方三分署に難なく辿り着いた。  だが署内に入る際にシドとハイファの銃がX‐RAYに引っ掛かった。一分署と二分署の轍を踏まぬよう厳重警戒警備中である。  星系政府法務局が統括する捜査戦術コンの武器所持許可証をリモータコマンドで見せ、実際に問い合わせまでしてから、ようやく署内に踏み入ることを許された。  指定されていた十三時半にはギリギリで間に合い、三階の大会議室に半ば駆け足で飛び込んでみると既に三百名からの人員で室内は埋め尽くされていた。  ここの署も単独でひとつの建物を占めており地上五階・地下二階建てである。本星セントラルエリアの七分署と比べて小規模なのは仕方ない。その分、宙港警備部がいるのだ。  それでも外は夜のテラ本星と何ら変わらなかった。第三宙港から無人コイルタクシーで乗り付けたが移動間に観察したところ、周囲には高層マンションが幾つか建ち並び、その最下階には様々な店舗がテナントとして入っていて賑やかに感じられた。  それらマンションを繋ぐ歩道にスライドロードが併設されているのも本星と一緒だ。   おまけに緑が意外に多かったのには少し驚いた。木々の成長に必要な波長が含まれているという外灯が照らし出し、居住環境は良さそうだとシドはやや安心した。  連続爆破のターゲットとして狙われさえしなければという但し書き付きだが。  大会議室では仮補填される人員それぞれにリモータ発振で一分署と二分署、どちらの仮配属かを告げられ分けられて整列させられる。 「これじゃ、マックスたちが何処にいるか分かんねぇな」 「最初のリストに載ったんだから同じ一分署じゃない? きっとあとで見つかるよ」 「それもそうだな。一分署はここからBELで二十分か。結構距離があるな」 「到着は遅刻寸前だったけど、お昼、宙港で食べてて正解だったね」  一応式典らしくタイタン地方統括本部長の訓示に続いて三分署署長が演台で喋っているのを遠目に見ながら、列の最後尾でシドとハイファは緩んでいた。  勿論この瞬間自爆テロにでもやられれば命の危機ではあるのだが、日常が異常にクリティカルな二人にはまるで緊張感なるモノが欠けていた。  一連の上層部の長ったらしい演説が終わり、何度目かの挙手敬礼をしてから列が動き出す。出入り口に近い順に二分署、一分署となっていて、シドたちも屋上のBEL離発着場に最終組として移動を開始した。  宙港管理局から人員輸送用大型BELを借り受けての移動は速やかに行われた。それぞれが自分の荷物を持ってBELに乗り込む。シドとハイファも飛来した最後の便に乗り、機上の人となった。  本星各署から集められた人員は、事務方・IT関連・捜査一課から三課に機捜課など、各々の元の職掌をそのまま生かすべく配置されるという。暴対の四課は太陽系で消えて久しい。テラ本星においてマフィアやヤクザといった存在はもはや化石ですらないのだ。  ともかくシドとハイファもセントラル地方七分署での位置と同じ、機動捜査課に配置だった。この辺りにフォッカー氏が言っていた通りに軍の、牽いては別室の意思が関与しているのかどうかは定かではないが、上手い偶然というより当然の帰結という気もする。  ただ、ここでは自分たちも特別ではなく一機捜課員で班に組み込まれる筈だ。あんまりふらふら出歩いて事件・事故とストライクしては拙いだろうと思われる。  シドはBELの窓から外の夜を眺めた。一分署に近づくにつれ地上の明かりも増してくる。自分たちがやってきた第一宙港から一番近いのが一分署だった。  第一宙港関係者の住宅や必要とされる福利厚生施設に商店街、本星に出入りする前にワープや乗り継ぎ便の都合で夜を過ごす者のためのホテルや歓楽街など、様々な色の明かりが星を撒いたように煌めいている。  やがて大型BELは高度を下げ、ランディングした。  三十名ばかりの同輩に続いてシドとハイファが降りてみると足元は建物の屋上で、どうやら投下されたテラ連邦規格のユニット建築を積み上げただけのシロモノのようだった。  積み木のような建物の階段を降りると先陣らがデスクや椅子を並べ、業者らしい民間人らと一緒になって端末の敷設などにいそしんでいる。  最下階まで降りてみて、即席警察署は地上三階のみであるのと、最初の仕事が上階と同じく引っ越し業であるのをシドたちは知った。  そこでやっとマックスとキャスとの再会を果たせたが、十七時半の定時過ぎにフロアが機動捜査課としての機能を備えるまではゆっくり話しているヒマもなかった。  警部である仮の課長が班割りをし、実質休みとなる裏の裏在署・一日中自宅待機の裏在署・署に出勤して事件待ちの表在署の三班を、捜査戦術コンの乱数表でクジ引き的に決めた。誰の恣意も働かず文句の出ないやり方である。  けれどそれでも引きの強いシドのお陰か、上手い具合にマックスたちと同じ班となり、これから今日を含めた二日間は裏の裏在署になった。二日交代、何事もなければという但し書き付きで、四日後の表在署になるまで出勤せずとも良いラッキィなスタートだ。  対して表在署組は連続勤務で、きついだろうが誰かがやらねばならぬことであり、課長の発表に溜息で応えて帰り支度を始める。  同報なる事件の知らせが入れば真っ先に飛び出して行かなければならないものの、全員が揃って二十四時間、署に詰めていなければならない訳でもない。  詰めるのは八時半から十七時半の課業時間中だけだ。  本当に気の毒なのはその中でも残った深夜番の四名である。ジャンケンに負けたバディ二組は早々にコーヒーを淹れ始める。彼らは事件が発生した際の連絡要員だ。  シドとハイファはマックスたちや他の人員と同様に荷物を担いで署を出た。空きがあるという官舎や星系政府が借り受けたホテルへは徒歩で向かう。  歩き始めてすぐ、外灯に煌々と照らされた大通りの脇に瓦礫の山があるのに皆、気付いた。それは元・一分署のなれの果てだった。 「気をつけ! 殉職・負傷した同輩に敬礼!」  先頭にいた警部補である主任が号令を掛け、殉職者にひとときの弔意を捧げる。  再び歩き出して暫くすると三十名ばかりの集団からぱらぱらと人数が減り始めた。それぞれ割り当てられた自室へと初めて帰るのだ。  リモータに流された仮の宿はマックスとキャスが単身者用官舎の部屋を一室ずつ、シドとハイファがホテルのツインを一部屋だった。 「どうする、部屋、交換してやってもいいぜ? 婚約プレゼント替わりにさ」 「そうだな……いや、甘えたいのはやまやまで有り難い申し出だが、署側の登録コードのこともあるし、勝手な真似は止した方がいいだろう」 「ふうん、真面目だな。こんな所で何があるとも思えねぇが」 「何ってあーた、爆破があったから僕たちが来たんじゃない」 「そうよ。シドも随分不真面目ね、割と昔からだけど」  口々に責められ、イヴェントに慣れきって緊張感のない男は諸手を挙げた。 「でも晩飯くらいは一緒に食おうぜ。どうせそっちと五分と離れてねぇんだし」  これには皆の賛同を得る。せっかく同じ班にまでなったのだ。 「官舎ビルにも食堂と喫茶室があるのは確認したけれど……」  キャスの呟きでそれぞれがリモータ操作して、インプットした自身の宿舎の配置図を見る。官舎は地上五十階という、この辺りでは破格の高層建築だった。対してシドたちの宿舎である星系政府が借り受けた部屋のあるホテルは二十五階建てだ。 「ホテルのレストランも今回の仮補填員にはタダ飯支給か……こっちの方が気が利いてねぇか? 普段から税金で作ってる飯より客向けの方が旨そうだから一票」 「その発想自体が哀しい公僕だなあ。でも僕も初日くらい官品ご飯は避けたいな」 「そうね、どうせ期間も決まってない出向だもの。嫌でも官舎の方は使うことになるし、人員が減ればいつホテルは閉められるか分からないし。今日はわたしもホテルの方に行ってみたいわ。今、十九時前だから状況が変わらなければ二十時でどう?」  このままならば四日後に表在署で出勤するまではヒマ、昔と変わらず活動的で、女性らしい興味も垣間見えるキャスの仕切りに、男性陣も否やはなかった。
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