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彼は語った。
長い船旅の果てに、壁に囲まれたこの国の岸辺にたどり着いたことを。
たどりついた港町では、あらゆるものが死に絶えていたことを。
海岸沿いをさまよい歩くうちに、難破した漕ぎ船の中に眠る少女を見つけたことを。
少女は縛られていた。
船の様子やそこに転がる死体たちから察するに、彼女はノルマンの海賊船に囚われていたようだった。
着るものや容姿からは、どこの種族のどんな階層の娘かわからなかった。
拘束を解いてやると少女は丁寧に礼を言った。
「私のことはエリクシルとお呼びください」
「トマスだ。あなたはどこの国から来たられた? 可能ならば故郷まで送り届けよう」
「それには及びません。私の行くべきはこの国です。四方を壁に囲まれたこの国の中心、眠りの塔に私は行くのです。二年前病に倒れ、その直前に自らを塔の最上階に隔離した、この国の女王に私は会いに行くのです」
「女王に会って、何とする?」
「手遅れかもしれませんが、女王と、この国の病を癒します。私は、この国に薬をもたらすために来たのです」
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