逆転

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「なぜ、女になって世間を騙している?」 エスはジュリアスに尋ねた。 「簡単な話さ。男の科学者より女の科学者の方がマスコミは注目する。僕が色々な新薬を開発した時は、10歳に満たない天才少女が現れたと騒がれた。でも本当は少年なのにと僕は心の中で大笑いしたものさ」 一体あの薬はいつ作られたのかと、エスは茶色の小瓶を頭に浮かべた。 「君が飲んだ、東が模造して作ったあの薬は、僕が3歳の時には今の形が出来ていたんだ。わざと元に戻らない副作用を付けたのは、ただの気まぐれだけど」 たった3歳でと驚き、エスは目の前の悪魔の顔を見つめる。 「俺の正体はいつ知った?」 「核開発を始めた頃、西の情報が東に流れた時さ。ただエスの正体が掴めなくて、どうしたものかと思った。君は女にも簡単に変装していたし」 「なるほどね」 「だからそれならばと東にわざとあの薬の情報を流した。完璧な女になれる薬なら、直ぐにエスに渡すだろうと思っていたし、僕に近づきやすい様に男性不信だと言う噂も流した」 東はまんまとジュリアスのトラップに見事なまでに引っ掛かった。 「西は優秀な科学者は多いが、優秀なスパイが居ない。それなら東のスパイの君を手に入れるしかない」 確かにそれは道理だとエスは頷く。 「……もう一度聞く。国を捨てて僕の所に来ないか?」 エスは溜息をついた。 「賭けをしないか?」 「賭け?」 「俺に副作用が出て、女のままならお前と手を組む。もちろん、俺を元の姿に戻せと言う事だ」 女の姿のままでは、体力的に今までと同じ活動ができないとこの数時間で実感している。 それに、ジュリアスと手を組むのも富を得るには申し分ない。 「もし、男に戻ったら?」 「モーガンと共に、お前は東の捕虜になる」 エスに言われるまでもなく、ジュリアスもそれは覚悟の上でエスを欲していた。 「良いだろう。明日は東の軍と会議が入っている。本当はその時に僕を捕虜にするつもりだったんだろ?もしお前が女のままだったらどうするつもりだ?」 「それは明日のお楽しみだ」
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