二人でひとり

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彼は優しい。 いつだって温かい笑顔で私を包んでくれる。 昨日だって私が仕事でミスをして落ち込んでいたら、声をかけてくれた。 「大丈夫、必ずできる。」 私は彼の言葉に癒やされた。ミスはその日のうちに解決することもできた。彼の言葉は魔法だ。 できなかったこと全てが、できるようになる。 そんな錯覚を覚える。 私と彼の出会いは、中学生の時。私の家は両親が共働きで、夏休みは私一人で家にいることが多く私は両親がいないすきに東京に遊びに行っていた。 その時たまたま仕事をしていた彼に出会ったのだ。 彼はすれ違う時、私に笑顔で手を振ってくれた。 まるで王子様のような素敵な笑顔だった。私は運命を感じたのだ。そう彼と私は赤い糸で結ばれている。だからこうして街で会っただけで糸の存在に気づくことができたのだと。 それから、10年私と彼はお付き合いをしている。 彼は忙しい人だから中々会えない。 会える日は、突然予告され私はハラハラしながら彼に会いに行く。福岡、大阪、札幌。 彼にいつ呼び出されても良いように頑張る。 職場の人に何を言われても私は平気だ。 今日は、彼の家に行く予定だ。私は月に何度か彼の家に行く。何故なら彼は忙しい人だから家事をしてあげるのだ。私を忘れないように、写真を飾ったり花束を飾ってあげる。花は腐りやすいから水を交換しにお世話もしてあげるんだ。彼は喜んでくれているかしら。たぶん喜んでいる。だって、私に手紙をくれたのだから。 しかし、マンションのセキュリティって本当に面倒くさい。彼は合鍵をつくるのを面倒くさいと感じているみたいで私に合鍵をくれない。だから私は誰かが開けるのをまち自分で合鍵屋さんを頼み複製した。彼は甘えているのかしら。私はその鍵を使い彼のお世話をしているのだ。 今日もキーを回す。彼は必ず洗濯物を溜め込むから、洗濯機を回す。彼の汗の匂いがする洗濯物。私は頑張っている彼を思い頬ずりをする。 そして、掃除をして持ってきた手料理を冷凍庫に入れる。彼はお肉料理が好きだから、生姜焼きも作った。お野菜も健康のために用意した。あとは、写真を飾り花を生けたら私はここからいなくなる。 彼が喜んでくれたことを想像しながら自宅に帰る。 私も1週間彼と同じメニューを食べる。彼と同じ写真を眺め、彼と同じ花を見て離れていても赤い糸で結ばれていることを感じて1日を終える。 幸せな時間である。 私はまた1週間経ったら彼に会いに行く。 1週間はとても長かった。仕事をしていてもふと集中力が切れると彼のことを考えてしまう。 だめだ。日常生活を頑張らなくてはいけない。 彼に言われたことを守らなければいけない。 「仕事は全力。あなたに会うために。」 彼が言った言葉だ。私に会うために彼は頑張っているのだ。だから私も頑張らなくてはならない。 私は自分を鼓舞しながら日常を過ごした。そして1週間が経った。私は彼の元に行く。いつもみたいに合鍵で彼の部屋に行く。今日は何だか空気が違う。 洗濯物も片付いている。なんだろう。私の頭の中から警鐘が聴こえてくる。これ以上踏み込んではならない。私はわかりつつも、冷凍庫の中身が気になり台所へ行った。 「夏樹理央さんですね。警察です。住居不法侵入で現行逮捕する。」 私は二人の男に手錠をかけられ連行される。 なぜ私は捕まるのだろうか。ただ彼が好きなだけなのに。好きな人に当たり前にすることをしただけなのに。私は理解ができなかった。 私の彼はアイドルグループのリードの岬蓮だ。蓮くんは私の彼で運命の糸で繋がれた人間だ。だから私は彼のために生きてきたのだ。最初は彼の仕事終わりにあとを追ったこともあるが、彼が嫌がったから私はコンサートのときだけ会いに行くことにしたのだ。彼はシャイだから、私と二人の時間をみんなに見られたくないんだと考え、反省したのだ。 私は愛が強すぎて周りが見えなくってしまった。気をつけなくては、彼のファンに嫉妬されてしまう。 だから私はみんなにあまり気づかれないように彼のマンションの住民を装い彼のお世話をしてきたのだ。彼は私のお料理を毎回食べてくれていたし、洗濯も喜んでいてくれたはずだ。 どうして、どうして私が捕まらなくてはならないのだ。私は悔しい。悔しい。 「何で悪いこともしてない市民を警察は連行するの。私が、羨ましいから。なんかの冗談でしょう。いい加減にして〜。」 私の叫びは虚しく警察車両に乗る。 私は彼を愛していた。彼も愛している。 何故なら運命の二人なのだから。
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