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煬鳳がそう言っても暫く仲眠は悩んでいたが、覚悟を決めたのか暫くあとにようやく頷いた。
「分かりました。……あの子、っていうのはたぶん僕の幼馴染みのことです」
「幼馴染み?」
「はい。……金おじさんとおばさんには、僕と同い年の子供がいたんです。小さい頃は結構仲が良くて。それでも、少し大きくなってからはさすがに頻繁に遊ぶことはなくなり疎遠になって、そのうちぱったりと見かけなくなってしまったんです」
きっと彼は金持ちだから村を出て都にでも行ったのかもしれない。彼は頭も良かったし、きっと都に出て良い仕事にでもありついているのだろう。
そんなことを思っていたのだと仲眠は語った。
語ったあとで急速に仲眠は眉を顰める。
「でも……考えてみると変ですよね。だって殆どの村人と僕はいつだって顔を見るし挨拶もする。もしも村から外に出たなら噂くらい聞くだろうし……姿を全然見なくなるなんてちょっと変かもしれない」
「お前の言う通り、だろうな。……なあ仲眠。その夫婦の家は分かるか?」
「わかります、けど……」
仲眠の言葉に煬鳳は満足そうに頷く。
「よし。じゃあその家に連れて行ってくれ」
「えっ……!?」
先ほど殺されそうになったというのに、自らその人たちの家に行くのか?
仲眠の目がそう語っている。
「中まで入るわけじゃない。安心しろよ」
中まで入るつもりはないが、入らないとも言っていない。
煬鳳はそういう性格だ。
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