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翳黒明が走り出す。
振りかぶった剣と閑白の持つ刃とが激しい音を立てて交錯する。その激しさのあまり、火花が飛び散ったようにすら見えた。
「俺に罪があるように、お前にも罪がある! お前こそ、俺に全てを擦り付けて何事もなかったような顔をするんじゃない!」
「その減らず口、翳冥宮の奴らにも聞かせてやりたかったぞ! 翳黒明! 全く、お前と来たら本当に私の邪魔をしてくれる! いまも、そして過去も! お前が戻ってきたあとで翳冥宮の人間たちを跡形もなく消し飛ばしてくれたお陰で、私は何も手柄を持ち帰ることはできず、ただ翳冥宮を捨てて戻る羽目になったのだ!」
それは違う――煬鳳には、腕の中にいる黒曜がそう叫びたいのが分かった。
(黒明は怒りでそうしたんじゃない。今度こそ、翳冥宮の人たちがちゃんと眠れるように……死んでもなお、その体を利用されることが無いようにしたんだ……!)
煬鳳は震える黒曜をそっと撫でる。幼い頃から生まれ育った場所の人々に己の手で引導を渡さねばならないこと、その辛さはいかほどのものだろうか。
だからこそ一度は正気に戻った翳黒明も、彼らを葬ったとき再び心を失ってしまったのだ。
「なら、こいつにも直接言ってやれ! 己に罪はないってな、仕方がなかったんだとな!」
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