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「怪我はありませんか……?」
煬鳳の耳横で凰黎の声が聞こえる。しっかりと凰黎に抱かれ、守られた煬鳳には怪我など一つもない。
「うん。凰黎のお陰で俺は大丈夫だ。……それより、凰黎は?」
「私もこれくらいで怪我などしません。それより煬鳳、あれを見て」
声を抑えた凰黎が、指で差し示す方向には見覚えのある人物が立っている。閑白の隣に立つその人物の顔からは、何の感情も見えてこない。真珠のような白く美しい髪と、透けるような白い肌、そして淡い色の瞳。
煬鳳が黒曜の記憶の中で見た――翳白暗その人だった。
煬鳳の視線に気づいた翳黒明が、視線の先を見て硬直する。
「嘘、だ……」
瞬きもせず翳黒明は翳白暗を凝視した。煬鳳が見た記憶の中で――最後に残った翳黒明と翳白暗。二人は死力を尽くして殺し合い、辛くも勝ったのは翳黒明だった。
しかし、翳白暗一人だけなぜこうして傷一つない姿で煬鳳たちの前に立っているのか。
(さっき閑白だって『翳冥宮の人間を跡形もなく消し飛ばした』って言ったよな?)
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