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翳白暗の剣が翳黒明の脇腹を掠める。すんでのところでそれをかわした翳黒明だったが、至る所から血が流れこの状態を維持するのもそろそろ限界がきているようだ。
「ああ、もう! 師兄の身体なんだぞ! 大事にしろ!」
堪らず彩藍方がそう叫び、翳黒明の間に割り込んだ。
「済まない」
「謝るなら、とっとと翳冥宮を復興させてその体を返しやがれ!」
「はは……」
翳黒明がふっと笑った。遠慮ない彩藍方の正直な言葉に思わず笑ってしまったのだろう。もう少し言い方があるだろうとは思うのだが、そう言いつつも彩藍方はいま、翳黒明を助けようとしている。
「酷い怪我じゃないか! いいか、お前の弟はもうとっくに死んでいるんだ。いくら体がそこにあったって、百年以上経ったいま、戻ってくることは絶対にありえない。諦めて割り切るんだ!」
「割り切れるものか! 俺だって死んだ。魂魄しか残っていない。それでも百年以上経ったいま、こうしてこの場所に戻ってきたんだ!」
彩藍方の言葉に、翳黒明は言い返す。
他でもない自分のことなら我慢できようが、意識も魂魄すら無かったとしても、目の前に弟がいたら諦めきれないのも無理はない。
――特に、もっとも大切な存在であるのならなおさらだ。
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