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すかさず閑白の剣を遠くに投げ捨てた煬鳳は、翳黒明と翳白暗の身体を引っ掴んで助け起こした。
「二人とも、これを見ろ!」
煬鳳は翳黒明の手の中に広げた手布を押し付ける。続いてどこを見ているのか分からない、焦点の定まらない瞳の翳白暗の頭を抱え込むと、彼の視線を翳黒明の手に向けてやる。
「これは、あのときの……」
困惑の混じった翳黒明の表情と声。翳黒明はこれが誰のためのものであるのか分かっていないのだ。
「約束の花……」
白く美しく、繊細に彫られた羊脂玉の髪飾り。それは翳白暗が想い人のために少しずつ作った約束の花の髪飾りだった。
翳白暗はやはり、何も反応することはない。体はあっても魂魄がないのだから、思い出の品を見せたところで無意味なのかと煬鳳は唇を噛む。
煬鳳には、これが誰のために作ったものなのかが良く分かっている。煬鳳の口からそれを告げることは容易いことだ。
しかし、できることなら本人から伝えることができたなら――そう思って一縷の望みをかけたのだった。
(駄目か……)
しかし望みはやはり潰えてしまったらしい。時間も惜しい、仕方なく煬鳳は髪飾りのことを翳黒明に伝えることに決め込んだ。
「いいか、翳黒明。この髪飾りはな――」
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