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痛みをものともせず背筋を伸ばした翳黒明は、迫る閑白を真っすぐに見据える。
「父上は言った。『宮主には相応の責任がある。その責を負うのには覚悟が必要だ』と。当時の俺は理解したつもりで、全然分かっていなかった。翳冥宮が滅んだあとに感じた苦しみと後悔を。俺自身が封印されてなお、蘇ってもなお、その記憶から逃れることができなかった」
血を吐くような独白。
翳黒明の頬に一筋の涙が流れる。
「閑白。俺の全てを懸けて、貴様の手から翳冥宮を開放してみせる。それが、俺の、翳冥宮の最後の一人としての、宮主としての責任だ。そして、白暗をお前の手から取り戻す!」
煬鳳は思い出す。夢の中で宮主が彼に言ったこと。
『……黒明。私はその覚悟を、その重さをお前に全て託す。幼い頃より一身にお前が背負ってきたのだから』
きっと彼はかつての宮主が言った意味を理解したのだ。
魂魄だけになっても現世に取り残された翳黒明。
様々な葛藤や苦しみもその過程にあっただろうが、彼の人生が終わりを迎えたその果てに、ようやく己の果たすべきことを理解したに違いない。
それが必然であったのか、偶然であったのか。
どちらにしても些細なもの。
「あれは……!?」
凰神偉が叫ぶ。
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