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翳白暗の手は伝う翳黒明の涙を拭い取り、彼の頬から手へと滑るように落ちてゆく。翳黒明が握りしめた掌を指一本ずつ優しく開いた翳白暗は、その手から白い髪飾りを抜き取った。
『僕のいちばん大切な人に――』
翳黒明の頭の後ろへと己の手を回し、白い髪飾りを器用な手つきで翳黒明の髪に留める。
翳黒明は翳白暗を凝視したまま、何も言うことができない。信じられないという顔つきで、翳白暗の様子を見ているだけ。
「白……」
やっとの思いで言いかけた翳黒明の口を翳白暗がすぐに塞ぐ。翳黒明の瞳は驚き見開かれ、緩やかにその身体は力を失っていった。
皆は一部始終を呆然と眺めていたが、それでも何が起こったのかすぐには分からずに沈黙の時間が過ぎてゆく。当事者である翳白暗もぼんやりと虚空を見つめたまま、微動だにしない。
やがてようやく煬鳳は我に返ると翳黒明の名前を呼んだ。
「黒明!」
「師兄!」
煬鳳と彩藍方が同時に叫んだが、意外なところから翳黒明の返事は返ってきた。
「――俺はこっちだ」
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