109人が本棚に入れています
本棚に追加
/1358ページ
おもむろに顔をあげたその人は翳白暗だ。しかし声は違えど、むすっとした口調は翳黒明その人に相違ない。怪訝に思い、煬鳳と彩藍方はもう一度翳黒明だったはずの男を見る。ぐったりとして目を閉じたその姿はとても弱弱しく、まるで彼が乗り移る前の彩鉱門の公子、彩菫青であるかのようだ。
「……どういうことだ?」
「……」
煬鳳と彩藍方が尋ねると、翳黒明は俯き黙ってしまう。
「恐らく翳白暗は己の身体に翳黒明の魂魄を移したのだ」
「鸞快子!」
そう言ったのは鸞快子だ。閑白の分身たちと戦いながら小黄を守っていたはずの彼だったが、汗一つかいてはいない。
「もともと閑白が彼を連れてきたとき、彼の身体は空っぽだった。あの瞬間……ほんの一時だけ翳白暗の魂魄が体に宿り、翳黒明に己の身体を託したのだと、私は思う」
鸞快子は穏やかな口調で翳黒明に語り掛ける。彼の気持ちを慮って、ゆっくりと諭すように話す。それでも翳黒明はすぐにその言葉を受け入れることができず、拳を握りしめている。
「そんなの……俺は望んでいない。白暗が傍にいてくれた方がずっと良かったのに……」
最初のコメントを投稿しよう!