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厳しい顔で蓬莱と相対している凰神偉は、弟のことがあるとばかりに覚めた声音で言い放つ。とはいえ、仮にも彼は恒凰宮の宮主。怒りの感情をむき出しにするわけではなく、極めて冷静な口調で蓬莱に言葉を返した。
――ということは、つまりこの老人は『蓬莱』か。
老人と凰神偉、二人の会話から煬鳳はそのように読み取った。
「お久しぶりです、蓬莱様」
そんな二人の微妙な空気を壊すように、凰黎が丁寧に蓬莱に向かって拝礼をした。いまこの場で一番悔しい思いをしているのは凰黎自身であるのだろうが、それをおくびにも出さない凰黎は大したものだ。
蓬莱は凰黎の挨拶が嬉しかったのか、心なしか言葉が明るくなる。
「久しぶりじゃ。そなたがまだほんのこれくらいの小さい子供だった頃以来じゃな。幼かったそなたも今や大人。あれから考えは変わってはいないのか?」
しかし、挨拶と会わせて出てきた言葉は、やはり恒凰宮の兄弟が望まぬ言葉ばかり。これでは話が通じないといわれても本当に仕方がない。
対する凰黎も予想していたのか、少しも考えるまでもなく問いかけと同時に蓬莱に返す。
「はい。蓬莱様には大変申し訳ないのですが、私はまだこの人界で生きて行きたいのです」
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