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「勿体のないことよ。お主ならすぐに飛昇できるじゃろうて」
「……」
そりゃあ凰黎は俺と一緒に生きていくのだから、仙界になんか行くわけがないだろう、と煬鳳は心の中で毒づいた。
白い衣を身に纏い、優雅に扇を持つ白髪の老人の姿はまさに絵から抜け出してきたような仙人そのもの。口調も穏やかで淀みなく、いかにも風雅な賢人といった趣だが、一つだけ不可解な点がある。
(目が見えないのか?)
老人は白い布で両眼を覆っており、彼の眼差しを直接見ることはできない。口元は微笑んでいるが、目が笑っていないような気がして、どうにも不安が拭えない。
「爺さん目は?」
恐ろしい、そう思いつつも煬鳳は蓬莱に尋ねる。凰黎が「黙って」と小声で制したが、なんとなく聞かずはにいられなかったのだ。
蓬莱は、老人らしい笑い声をあげたあと、煬鳳を見た。顔は隠れて目は見えなかったが、敵意のこもった視線を向けられているように煬鳳には思えて仕方ない。
「ほほ。よく聞きづらいことを明け透けに聞くものじゃな。……良いじゃろう、教えてしんぜよう。目で物を見るとは限らぬのじゃよ。ときには目を使わずともすべてを見通すこともできる。例えば、お主が儂に恐れを抱いていること。そして消えたと見せかけてこそこそと隠れている門派の存在であるとか、な」
老人の言葉が刺さる。
煬鳳は反射的にこの老人を恐ろしいと感じた。何気なく考えていたことを、恐らく彼は見抜いたのだ。
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