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「申しわけございません、蓬莱様。ですが弟は閑白との一戦で疲労しております。非礼を承知でお願いいたします、今日のところは仙界にお戻りください」
凰神偉が蓬莱に頭を下げ直言する。丁寧な物腰だが、絶対に引くことはないという意思のこもった声。かつては幼かったばかりに凰黎を見送ることしかできなかったツケを、いま取り戻そうと彼はしているのだろう。
「やれやれ。こうなっては儂が悪者のようじゃな」
溜め息を一つついた蓬莱の声から、殺気が抜けたように煬鳳には思えた。
「今日のところはそなたの兄に免じて帰るとしよう。しかし凰黎。そなたは既に人の道を外れている。このまま人界にいるよりも仙界に行く方がきっとそなたのためになるであろうよ。ゆめゆめ忘れるでないぞ」
そう言うと蓬莱はひらりと扇を一扇ぎする。扇いだ風から霞か雲か生まれると蓬莱はそれを纏って空の彼方へと飛んでゆく。
「ゆめゆめ忘れるでないぞ――」
遠くでもう一度、蓬莱の声が聞こえた気がした。
それから、煬鳳たちは急いで彩藍方を彩鉱門へと送り出した。蓬莱がいつ戻って来るとも分からなかったからだ。彩菫青が負った怪我も楽観視はできない。
「師兄の件が落ち着いたらまた戻ってくるからな!」
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