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その先を翳黒明が言うことはなかったが、翳黒明が何を言いたかったのか、煬鳳には分かった。
「さあ、翳冥宮を包むように結界も張った。我々も恒凰宮に帰ろうか」
凰神偉と凰黎が戻ってきたのを見つけると、鸞快子が煬鳳たちに呼び掛ける。煬鳳としては原始の谷のことも気にはなったのだが、いまはそれよりとにかく疲れが勝っていた。
黒曜は翳黒明のことが心配なのか、それとも共に悲しみを分かち合うためなのか、何か語るでもなく静かに翳黒明の肩に留まっている。
翳冥宮全体に結界を施した凰神偉も凰黎も、多かれ少なかれ疲れているのだろう。足取りも心なしか重く感じる。
しかし凰黎は煬鳳のことを気づかわし気に窺う。
「煬鳳、疲れているのではないですか?」
「疲れた! でも、俺より凰黎のほうがずっと疲れてるだろ?」
煬鳳の言葉に凰黎は「そうですね……」と考えている。
「疲れたといえば疲れましたが、肉体的な疲れより精神的な疲れの方が大きかったですね」
そう言うと凰黎は大きく溜め息をついた。その大きさといったら、全身で溜め息をつくようなほどだ。
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