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凰黎は卓子の脇にある椅子に座り、もう一方の椅子をとんとんと叩いて煬鳳を呼んだ。
「ここは昔、私の部屋だったんです」
「凰黎の部屋?」
「そう。……ですが、流石にもう十五年以上経っていますから、当時と変わらず残っているものは両親が飾ってくれた掛け軸くらいでしょうか」
客のために用意したにしては広すぎるとは思ったが、凰黎の部屋だと言われれば納得だ。
大人が眠れるであろう大きさの寝台。
机案の上には硯が置かれており、この部屋を使う者がいたならばきっと書画でも嗜んでいたことだろう。けれど残念ながら誰かが墨を磨った様子は無く、それを使う者はこの部屋には存在しないようだ。
立派な家具や床に至るまで埃ひとつない様子は、恐らく凰黎の父母や凰神偉が、いつの日か凰黎が戻ってくる日を夢見て部屋の手入れを続けていたに違いない。
両親が飾ったという掛け軸には竹が一本だけ描かれている。
不思議に思ってその絵を見つめていると、凰黎が気づいて微笑んだ。
「ふふ、変わっているでしょう? 父曰く『そなたは一見すると脆く見えるが、ほんとうは芯が強く、どんな困難にも折れることのない竹のような子だ』と言ってこの絵を私の部屋に飾ったのだそうです」
「それ、当たってるかも」
「本当ですか?」
煬鳳の言葉に凰黎は肩を揺らす。
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