109人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし、穏やかな表情を浮かべて凰黎は煬鳳を見つめる。その優しさと切なさの入り混じった瞳は煬鳳の心をぎゅっと掴む。
「過去や未来を知るということは、危険を伴うことですから。ですから私は誰も危険な目に遭わせたくはないのです」
「なら聞くけど。知らないときとどっちが危険なんだ?」
「どちらとも言えません。ただ、どちらだとしても結局のところ足掻くのでしょう」
『けちけちしないで教えてくれよ』
そう言いたかったが、煬鳳の口からはとても言うことはできなかった。
凰黎は秘密にしたいわけではなく、言えないのだと悟ったからだ。
それでも万晶鉱が人々を惹きつけてやまないのは、やはりそれだけの苦労に見合う価値があるのだろう。なにせ未来を知ることができる、というのは自分たちのこれからを変えられる可能性を秘めている。その気になれば文字通り世の理を支配できる、というわけだ。
ならばなぜ、と煬鳳は思う。
凰黎は過去と未来を垣間見たと言った。
それなのになぜ過去や未来に干渉しようとはしないのだろう?
と。
「へぇぇ……難しいなあ。俺は万晶鉱に縁が無くて良かったよ」
煬鳳の言葉を受けて、凰黎は思わず破顔する。
煬鳳の言い方がよほど可笑しかったらしい。
「ふふ。煬鳳にかかると、万晶鉱も形無しですね」
最初のコメントを投稿しよう!