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恒凰宮で数日ほど休息した煬鳳たちは、恒凰宮の客堂にて原始の谷へ行く算段を話し合っていた。
「原始の谷は恒凰宮と翳冥宮の者でも一握りの人間しかその正確な場所を知ることはない。厳重に秘された聖域なのだ。そして本来、原始の谷はよほどのことが無ければ封印を解くことは許されない」
星霓峰の中でも特に秘密にされてきた場所。そこに繋がる入り口が隠されているという、禁足地までの地図を見せながら凰神偉がそう言った。ここまでやってきて、地図まで見せたのにまさかの『原始の谷を開かない』などということがあるのだろうか?
一瞬、みなが息を飲む。
「しかし――恒凰宮と翳冥宮、双宮の者が揃うのはおよそ百年ぶり。私も、そして私の父の代でも原始の谷を開いたことはない。……いま、こうして翳冥宮の中で原始の谷を開く方法を受け継いだ宮主がようやく表れたわけなのだから、まず本当に開くのかどうか、我々には試す義務があると考える」
「……」
要するに『本当は駄目だが、今回は特別に開ける』ということだ。
目の前の強面男、凰黎の兄は生真面目すぎるゆえにある程度自分の納得のいく理由を無理やりにでもつけないことには気が済まないらしい。
「感謝します。宮主」
鸞快子が凰神偉に言った。
「……それに、翳黒明も」
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