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恒凰宮の中庭は他の門派と比べても群を抜いて広大だ。それはひとえに恒凰宮の、他の門派と比べても古く長く続く歴史ゆえのものだろう。
「あー、最高だな……」
沐浴を終え、洗いたての衣袍に身を包み、凰黎の膝枕で煬鳳は草叢に寝転がる。いまの気分は最高だ。
大きく広がった竹の葉は青々としており、透けるような影を落とす。咲き頃も終わりかけの梅の花は、それでいてなお心地よい香りを煬鳳たちに届けてくれるようだ。
恒凰宮には燐瑛珂をはじめとした門弟たちもいるのだろうが、庭が広すぎるせいなのか殆ど声らしい声は聞こえない。
ときおり風に乗って遠くから修練の掛け声が聞こえてくることもあるが、それもまたすぐに掻き消えてしまう。
初めのうちは早く五行盟に行かねばと焦った煬鳳ではあったが、既に地震は黒炎山で起きたあと。現地に住まう者たちが一番危機感を持っているだろう、一日二日を焦っても仕方がない。それより今の体調を万全にすることの方が大事だ――と説得されて、確かに凰黎の言う通りだと納得したのだ。
このように穏やかな一日を過ごすのは一体いつぶりだろうか。
恐らく玄烏門で過ごした数日間以来だったかもしれない、と煬鳳は思う。
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