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「一緒に居ることは礼とかそういうのじゃなくて、当たり前のことなんだから。お礼にならないだろ? でも、凰黎が俺のために今まで沢山してくれたことは当たり前以上のことなんだからさ」
「一緒ですよ」
背後から抱きしめたまま、煬鳳の首筋に凰黎が顔を埋める。
「大切な人のためなら、その人にとって本当に意味があることだとしたら、どんなことだってしてあげようと思うでしょう? だから、おんなじことなんです」
「そうかなぁ……」
そうなんですよ、と凰黎は微笑む。
今まで当然のようにそうしてきてくれた彼だからこそ、彼の言葉には説得力がある。
「なら俺も――凰黎のために意味があることなら、どんなことだってするよ。約束する」
けれど、凰黎がそんなとき煬鳳に向ける眼差しは喜びではなく寂しさなのだ。
「……でもやっぱり私は、そんなことよりも貴方が側に居てくれることが一番嬉しいですよ」
浮かべた表情の意味するところは、いったい何なのだろうか。
答えを聞きたくて、聞けなくて、もどかしさで煬鳳は凰黎の顔を両手で引き寄せた。
「食事をお持ちしました」
水辺の方から煬鳳たちを呼ぶ声がして、二人は顔を見合わせる。
そよぐ楊柳の向こう側、ちょうどちょうど湖の中央にある水榭には燐瑛珂が立っていた。卓子の上には幾つかの皿が並べられており、いつでも食べられるよう準備がされている。
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