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その夜、煬鳳は誰かの涙で目が覚めた。
「凰黎……?」
誰か、というまでもなくそれは凰黎の涙だ。煬鳳は彼の表情を確認しようと顔をあげる。凰黎の腕の中にいるため、彼が目覚めないように体を動かすのは至難の業だ。しかし、慎重にゆっくりと煬鳳は体の向きを移動させる。
(やっぱり、泣いてる……)
微かな月明かりに浮かびあがる美しい顔。白く艶めく相貌には夜露のような一筋が流れている。普段は穏やかな表情の彼が、微かに顔をしかめ、苦悶の感情をにじませていた。
起こそうか、起こすまいか。
逡巡ののち、煬鳳はそっと凰黎の頬に手で触れる。触れた瞬間に凰黎の眉が跳ねてどきりとしたが、彼が目を開くことはなかった。
(震えている……?)
微かに凰黎の体が震えているように感じ、煬鳳は腰に回していた手を凰黎の背中へと滑らせる。
清瑞山で一緒に寝ていたときはこんなこと一度もなかったはずだし、旅をしているときだって同じだった。
ならば今日が初めてなのか?
それとも煬鳳が気づかぬうちに凰黎はいつの頃からかこうして眠りながら泣いていたのだろうか?
煬鳳の体を心配してのことなら理解できる。しかし、煬鳳の霊力に関する懸念は全て払しょくされたはずだし、唯一の懸念点は睡龍のことくらいなものだ。
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