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(どうしよう……黒曜を呼ぶか?)
しかし、黒曜を呼び出そうとしても彼は煬鳳の体から出てくる気はないようだ。どうやら『恋人のことは自分でなんとかしろ』ということらしい。
(あの野郎……)
次出て来たときに絶対モミモミしてやる、と心に誓い煬鳳は溜め息をつく。凰黎の辛そうな表情は変わらない。煬鳳は凰黎をしっかりと抱き抱え、彼の背中を優しく撫でた。
「凰黎。俺がついてるよ。大丈夫だ」
起こさない程度の小さな声で凰黎に言い聞かせながら背中を撫で続ける。同時に凰黎の表情を観察していると、少しずつ表情は和らいでいくように思えた。
(良かった……)
悪い夢でも見ていたのだろうか。
「煬鳳……?」
「あ……」
安堵したのもつかの間、凰黎は目を覚ましてしまったらしい。起こさないつもりだったのに、申し訳なさで「ごめん」と告げると、凰黎は口元を緩ませながら首を振る。
「もしかして……心配してくれたのですか?」
「うん。……なんか、辛い夢見てるみたいだったから」
凰黎は恥ずかしそうに笑うと寝台から降りる。煬鳳が声を掛けようとすると「少し待ってて」と言う。自らは傍に置いた外衣を羽織り、煬鳳の体に被褥をしっかりと被せ、暗闇の回廊へと消えてゆく。
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