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そわそわと被褥に包まれたまま煬鳳が待っていると、半刻にも満たぬ程度の時間で凰黎は戻ってきた。
「お待たせしました」
凰黎の声と共に覚えのない香りが舞い込んでくる。はっきりと何とは分らぬが、どこか遠くの地を思い浮かべるような、不思議な香りだ。
凰黎は茶碗を二つ乗せた盆を卓子に置くと、煬鳳に手招きをする。
「……何か羽織って、こっちにいらっしゃい」
いそいそと煬鳳は用意されてあった外衣を羽織って彼の元へと向かおうとする。
「暗いから、気を付けて」
暗闇には慣れっこだが、慣れない場所では確かに躓く可能性もなくはない。ちょうど凰黎は灯燭に火を入れるところだ。うっかり躓いてしまったら大変なことになるだろう。煬鳳は足元に注意を払いながら凰黎の元に向かう。
煬鳳が椅子に座ったとき、優しい光が部屋の中に広がった。
「光を出すこともできますが、あまり強い光では本当に眠れなくなってしまいますからね」
暖かな灯燭の光に目を細め、凰黎は柔らかい表情で語る。
煬鳳は卓子の上に置かれた茶碗に顔を近づけながら、香りの正体を確かめた。
それでもまだ不思議そうな顔をしていたせいか、凰黎はクスリと笑い「夜は少し冷えますから、温まるものを持って来ました」と言う。
「これ、何だ? 初めての香りがする」
「なんだと思います?」
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