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煬鳳は首を振る。
「これは乳茶と言って、磚茶に牛や馬の乳を入れた飲み物です。以前睡龍の外へ使いに出たときに御馳走になりました。……優しい味で体も温まるし、心が落ち着くかな、と思いまして」
聞きなれぬ言葉に驚く煬鳳だったが、凰黎に「美味しいですよ?」と言われて恐る恐る口を近づけた。
「美味しい!」
「でしょう?」
しかし、元々凰黎は恒凰宮の生まれとはいえ、いまは蓬静嶺の嶺主代理でもある。勝手に夜中にあれこれとやって良いのだろうか?という疑問も湧いてくる。
「ふふ、勝手に持って来たと思いましたか? もちろん、一言断ってから頂いてきましたよ。兄上には自分の生家なのだから好きにして良い、と言われましたが……いくらかつての住んでいた場所とはいえ、そのようなことできるわけがありませんから」
煬鳳の心を見透かしたように付け加えると、凰黎も乳茶に口を付ける。
「それで……、あのさ。さっきはどうして泣いてたんだ? 辛い夢を見たのか?」
凰黎の勢いに流されそうになってしまったが、大切なことをすかさず煬鳳は切り出した。発端は眠れないことではなく、凰黎が泣いていることに気づいたことだったからだ。
「……辛い夢、そうですね。とても辛い夢を見ました」
茶碗に目を落とし、呟くように凰黎は語る。
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