110人が本棚に入れています
本棚に追加
凰黎の白い手が、煬鳳の顎を捕らえた。煬鳳はにやりと口の端をあげると、凰黎の首の後ろに己の手を回す。
『もちろんだよ』
返事の代わりに煬鳳は唇で答えを告げた。お互い離れぬようにしっかりと抱きしめ合い、何度も深く口付ける。襟の隙間から差し込まれた凰黎の手が滑るたび、煬鳳の肌を粟立たせた。静かな夜に響かぬようにと思いはしたが、堪えきれずに気が付くと小さく短く声が漏れてしまう。
「凰黎っ……」
焦りの混じった声で煬鳳は凰黎の名を呼ぶ。
凰黎の見た怖い夢を、二人の思い出で消し去ってしまいたい。辛い夢を彼が忘れられるように。もう二度と見ないようにと願いながら。
「煬鳳……有り難う」
「へっ?」
そんなことを考えていると、凰黎から『有り難う』と言われて煬鳳は素っ頓狂な声をあげてしまった。何より、普段はいつだって「有り難うございます」と丁寧な言い方の彼が砕けた口調で言うのは珍しい。
「急に、どうしたんだ?」
「貴方だっていつも急に言うじゃありませんか」
そう言って凰黎はくつくつと笑う。
「私の不安を拭い去ろうと思って、敢えて積極的になったのでしょう?」
凰黎には敵わない。いつだって煬鳳のことをお見通しなのだ。
最初のコメントを投稿しよう!