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「腕を開放してくれないと、俺は凰黎のことを抱きしめられないんだけどな?」
少し意地悪く言うと、凰黎が毒を抜かれたような顔をする。二人は無言で見つめ合い、凰黎は柔らかく微笑んだ。葉の擦れ合う音が窓を叩き、そうして少しの時間が過ぎてゆく。
ゆっくりと凰黎の手が緩み煬鳳の腕が解放されると、すかさず煬鳳は凰黎の背に手を回して己の方へと引き寄せる。抱きしめた背中から流れ落ちる凰黎の長い黒髪は、煬鳳の髪よりもずっと繊細で艶やかだ。
「なあ、凰黎」
「なんです? 煬鳳」
「俺、本当のことを言うと少し怖いんだ」
睡龍を本当に鎮めることができるのか?
行動しなければならないと分かったとき、なるべく待ち受けるであろう出来事を考えないようにしていた。
しかし、明日にはもう否が応でも行動しなければならないのだ。
だから、悔いは残したくない。
けれど諦めているわけでもない。
――魘されていた凰黎が目を覚ましたときから決めていた。
――心行くまで凰黎と一緒に語り合いたい、抱き合いたい。
「だから、今日は離さないでいて。俺が安心して眠るまで、起きていて」
「ふふふ、先ほどは私の不安を取り去ろうとしたのに、今度は立場が逆ですね?」
「うっ……」
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