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先ほどまでは凰黎が泣いていたことで頭が一杯だったのに、明日のことを思い出したらつい弱音を吐いてしまった。
「ご、ごめん……」
謝る煬鳳の頬に凰黎は軽く口付ける。
「駄目だなんて言っていませんよ? 私には煬鳳がいるように、煬鳳には私がいます。互いに心細いときは支え合う、それが共に在るということでしょう?」
「うん」
「私は貴方の傍にいます。離れたりなんか絶対にしません。だから――」
凰黎の唇が微かに動く。その言葉の意味を考えている間に、煬鳳の視界はまた凰黎で埋め尽くされてしまった。
『だから絶対に、消えてしまわないで――』
微かに聞こえた凰黎の言葉は、きっと幻聴だろう。それでも煬鳳の心はざわついて仕方ない。
首筋に伝う温かいものは、涙だったのだろうか。
幸せなひとときのはずなのに、どこか一抹の不安が拭えない。
けれどそんな一かけらの懸念さえも、やがて二人の呼吸の中に消えていった。
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