110人が本棚に入れています
本棚に追加
次の日の朝早く、煬鳳たちは恒凰宮をあとにした。凰神偉と翳黒明は小黄と共に原始の谷に行っている。ゆえに煬鳳たちの見送りは燐瑛珂がしてくれた。
「二公子、そして皆さま。どうかお気をつけて」
「……兄上によろしくお伝え下さい」
二公子と呼ばれ、既に蓬静嶺の養子となっている凰黎の心中は複雑なものだろう。燐瑛珂への返事に少しだけ間があったことからも凰黎の戸惑いが読み取れる。
しかし、同時に恒凰宮で兄と接する凰黎は以前よりも距離が縮まったようにも思えた。
(せっかく二人だけの兄弟なんだから、これからは時々はお互い行き来できるようになればいいけど……)
凰黎の実の両親は既になく、唯一残っている肉親は兄だけ。物心つく前に両親を失った煬鳳には兄弟がどれほど大切な存在か、少しは分かるつもりだ。
しかし、凰黎がそうするためには――あの蓬莱の存在が障害になるだろう。
いつかどうにかしてやりたい。方法はまだ思いつくことはないけれど。
「燐瑛珂」
多少の名残惜しむ時間が終わり、いざ出立のときになって煬鳳は燐瑛珂に呼びかけた。
「煬殿、いかがされましたか?」
最初のコメントを投稿しよう!