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鸞快子の言葉を受けて、すぐに給仕の一人が建物の中に消えてゆく。ほどなくして彼女は籠いっぱいの瑞々しい桃を持ってきてくれた。どの桃も大きくて形が良く、傍にいるだけで芳醇な香りが伝わってくる。
(うわあ、桃だ……)
無意識に顔をしかめそうになって、慌てて煬鳳は頬を叩く。
桃自体に全く罪はないのだが、蓬莱の一件やら翳白暗のことなどもあって、すっかり桃を見ると仙界のことを思い出すようになってしまったのだ。風評被害も良いところだが。
「瓊瑤、いつも感謝している」
どんな女性でも蕩けてしまいそうな美しい声で鸞快子は瓊瑤の口元に桃を運ぶ。嬉しそうに啄む瓊瑤を見ながら、本当に彼女は鸞快子のことを慕っているのだと改めて思った。
(たぶん、瓊瑤は桃が好きなんじゃなくて鸞快子が好きなんだろうな。だからきっと桃以外をあげても彼女は絶対喜んだに違いない)
尊い鳥すら虜にする男、恐るべし。
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