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しかし声に出したあとでしまったと思い至る。睡龍に国師はいないのだ。普通の者はそう気づかないかもしれないが……中には国師がどこから来たのか、気づくものもいるかもしれない。
そんな煬鳳たちの焦りに気づくことはなく、国師と呼ばれた男は鸞快子を見てほっとしたような顔をした。
「……鸞快子殿! 貴方を探しておりました」
「よもや供の者を一人しかつけずに来られるなど……いえ。ここでは目立ちます。どこか別の場所に……」
周囲の視線に気を配りながら鸞快子は国師に歩み寄る。煬鳳と凰黎は、自分たちがどうすべきなのかと考えてみたが、周りを取り巻く人々を追い払うくらいしかいまできることが見つからない。
そんなときだ。ばたばたと騒がしい足音が聞こえてきたかと思うと、五行盟の中から兵士たちが一斉に飛び出してきた。驚く煬鳳たちを尻目に、彼らは周囲の野次馬を押し戻し、強制的に入り口から立ち去らせるつもりのようだ。
そして、最後に橙紅の衣袍を纏った青年が一人出てきた。
「はい、はい! 皆さまお騒がせしました! 客人との約束で不手際があったようで、お騒がせして申し訳ありません。皆さまどうぞお引き取り下さい!」
「あいつ……瞋熱燿か!」
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