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陰気によって鬼に変じ、どこかに行ってしまったのではないか。他の者たちはそう言った。はじめは瞋熱燿もそうかもしれない、と思ったのだ。
しかし、それ以降も同じことがたびたび起こるようになった。
足りなくなる死体の数も、犠牲者が増えるほど増えてゆく。
決定的だったのは揺爪山の崩落事件のときだ。
「多数の人が犠牲になって、しかもかなり変わり果てた状態で発見されました。当然、死因を突き止めるために五行盟の本部に運び込まれたのですが……やはり同じように数は合いませんでした」
ただ、揺爪山で亡くなった人々は人相も判別がつかぬほどの、骨と皮だけの状態であったため、誰がいなくなったのか、そして遺族の元に戻すこともできない。
「そうしたら、お爺様が『あとは自分が彼らのことを弔うから任せて欲しい』と仰って、僕はお爺様にお任せすることにしました。ところが――盟主様が一体いつ彼らをどこにどうやって弔ったのか、全く分からないのです」
「それで、お前は盟主……瞋九龍の行動を怪しく思ったってことだな」
煬鳳の問いかけに瞋熱燿は頷いた。
「それとなくお爺様に尋ねてみたりもしたんです。でもやっぱりはぐらかされてしまって……」
瞋熱燿は俯く。彼はいつも自分に自信が持てず、おどおどとした印象を受けることも多い。しかし、己の責務を果たそうと努力する彼の誠意には好感が持てる。
「あの……一つ宜しいでしょうか?」
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