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「いいえ、滅多に使うことはありません。まあ……贅沢品ですので貴族の方などがお見えになったときに使う程度です。本来は山の氷室などに氷を貯蔵して、必要なときに運び込むのが一般的ですが、五行盟は五行使いが揃っていますから。手間をかけるよりは本部で賄おうというような意図だったと思います。……ですが、この記録の氷の量は、いま思えば五行盟の貯蔵庫で賄える量ではありません」
瞋熱燿は筆先に墨を浸すと別の紙に書き記す。運び出した物の分量と日付、そして運んだ場所。書かれた内容は分量と日付以外はどれも皆変わらない。
「運び出したのは全て氷。そして運び先は瞋砂門。……氷の分量は初めは少ないですが、揺爪山の事件から少し経った頃にかなりの量を運び出しています。時折増やしてもいるようですが、それにしても本当にこの量を運び出していたというのなら、ちょっとおかしいと思います」
「つまり……盟主様は氷と一緒に死体を氷だと偽って、死体を瞋砂門に運ばせたということですね?」
「恐らく……ですが、あくまでこれは仮定の話であって推測の域を出ません。中身を実際に確認したわけではないのですから」
頷いたものの信じ難い、という表情で瞋熱燿は眉をひそめる。彼もまだ信じることはできないのだ。そしてそれは煬鳳たちも同様で、彼が何のためにこのような一連の行動をとるのか、あるいはそう思っているのは間違いなのか、分からないのだ。
煬鳳は考えた末、あることを思いつく。
「ならさ、行って確かめてみるってのはどうだ?」
「はい!?」
突然の言葉に瞋熱燿が目をひん剥いて聞き返す。
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