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先導する瞋熱燿のあとに続き、煬鳳たちも歩き出す。時折見回りの目を掻い潜りながら静かに進んでゆくと、側房のさらに奥の裏側に古びた倉を見つけることができた。隠れるようにひっそりと建つ家屋は、夜の中にあってなお昏く影を落とし陰鬱な印象を与えている。
「ここです。……ですが、先ほども言ったように鍵が無いので開けることは難しいかと……。何より古いものなので既に錆ついていて、仮に鍵があっても開けることは難しい可能性もありますが……」
「少しいいですか?」
凰黎は倉庫に近寄って、扉の閉じられている錠の部分の観察を始めた。
「……錠の表面は確かにかなり錆が浮いていて、ぱっと見ではとても使い物になるとは思えません。しかし、驚くほど内部の音は滑らかに聞こえてくることから……定期的にこの鍵は使われているのだと思います」
「そんな、まさか!?」
驚く瞋熱燿に凰黎は肩を竦め、錠に向かって何か唱えると、軽快な鍵音が静けさの中にひとつ響く。気づけば凰黎は白く光る棒のようなものを握っており、恐らくはそれで鍵を開けたのではないかと煬鳳は思った。
「開いたのか?」
「ええ。この通りね」
慎重に倉庫の扉に手をかけると、ゆっくりと開く。
瞋熱燿はまだ信じられないようで、何度も扉の鍵を確認している。
「本当だ……でも、一体、なぜ!?」
「鍵を紛失した、ということ自体が嘘だったのだと思いますよ。入りましょう」
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