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袖で鼻と口を隠すと、煬鳳は足場に注意しながら階段を下りてゆく。少し湿り気のある空気が肌に触れ、なんとも心持ちが悪い。
しかしながら、乾いた石段ではないことが幸いして、足音は殆ど響かないようだ。
「階段を下りるのは、黒曜の光だけじゃ流石に心許ないな」
足場も殆ど見えず、階段のあちこちに生えている苔でうっかりすると滑ってしまいそうだ。仕方なく煬鳳は顔を上げ、上から降りてくる凰黎に「悪いんだけど、灯りを貰えるか?」と頼む羽目になってしまった。
「構いませんよ」
凰黎の手のひらから燐光が湧き上がり、煬鳳の手のひらへと飛んで行く。光の玉は煬鳳を慕うかのように飛び回り、足元を照らし出す。
「凰黎、有り難う」
煬鳳は凰黎に礼を言うと、再び慎重に石の階段を降り始めた。
案の定と言えば案の定だが、階段を一段ずつ降りて行くたび鼻を突く臭いは強くなる。不快感を伴う臭いに対しておおよその見当はついているが、できればあまり考えたくもない、と煬鳳は思う。
けれど階段の一番下まで辿り着いたとき、煬鳳の予想は大方当たっていたことを想い知らされた。
「なんだこれ――!?」
煬鳳の上擦った声を聞いて、凰黎と瞋熱燿が急いで煬鳳に続く。彼らもまた、光に照らし出された光景を見て言葉を失ってしまった。
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