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二撃もなんとかかわし、驚きつつも男から距離を取った。
相手が拘束されているからと油断したら、うっかりやられかねない。
捕まっていたとは思えないほどの俊敏な動きに、煬鳳は面食らってしまった。
油断はできないが、とにかく説得しなければ。敵意をむき出しにする男を前にして煬鳳は考える。
「うがぁあああ!」
「うわっ!」
ところが突然黒い――声で男だと分かった人物が叫び声をあげたので、咄嗟に煬鳳は男に向かって掌底を叩きこんだ。一瞬にして男は口から泡を吹き、白目を剥く。
「しまった、つい反射的に……!」
騒がれたら不味い、そう思ってうっかり男を気絶させてしまったのだ。結果としてはまあ良かったかもしれないが。
男は気を失ったことによりだらりと首を垂らしてしまった。
「煬鳳!」
走り寄る凰黎に慌てて煬鳳は手と首を全力で振る。決して殺したりなどしていないと弁明するために。
「だ、大丈夫だ! 気絶しただけだから……! それにしても、こいつ一体誰なんだ?」
鎖の拘束を外したあと、男を助け起こした瞋熱燿は入念に男の様子を観察している。男は随分以前より拷問を受けていたようで、よく見れば体にひどい傷が残っていた。体も相当やせ細っていて生きているのが不思議なほどだ。それでいてあの俊足の蹴りを繰り出してきたのだから、こうなる前は相当な実力の持ち主だったことだろう。
「この方を、私は知っているような気がします……」
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