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どうやら何か思い当たったようだ。
「静……公子、だと……?」
男は震えながら瞼を押し上げ、凰黎の顔をじっと見つめている。
「おお……儂の記憶から随分年を重ねられたようだが、確かに蓬静嶺の公子殿……! 儂だ、雪岑谷の谷主、吾太雪だ……!」
煬鳳は聞き間違いなのではないかと男の顔を二度見した。
忘れるはずもない。つい少し前、黒冥翳魔の件で五行盟で吾太雪の弟子たちには随分色々責められたのだ。
なのに目の前にいる、どれほど牢屋にいたのか分からない男が吾太雪であると、彼は言うのだから……!
「なんだって!?」
堪らずに煬鳳は声をあげたが、同時に瞋熱燿も同じことを口にしたので、結果的に二人とも殆ど同時に叫んでしまった。
「でも、まさか、じゃあ閉閑修行をしているはずの吾太雪は!? 本当なのか!? 嘘を言っているんじゃないのか!?」
「煬鳳! ……私は幼い頃に吾谷主の戦いを見たことがあります。それで先ほどの戦いではっきり分かりました。……この方は間違いなく、雪岑谷の吾谷主です……!」
凰黎がきっぱりと言い切ったことに、煬鳳は何より驚く。彼がここまで言うということは、よほど確信を持ったのだろう。
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